一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
これから日本のエンターテインメントを担う
若きプロデューサーたちへ
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~

一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~
2025.6.26
音楽・芸能の発展に貢献し大衆に希望を与えた人を顕彰する『渡辺晋賞』。今年第20回を迎えたことを記念して、これまでの受賞者に『これから日本のエンターテインメントを担う若きプロデューサーたちへ』と題して、次代を担う若き才能たちへの応援と後押しの一助とするべくインタビュー企画がスタート。稀代のプロデューサーの目に現在のエンターテインメントシーンはどう映っているのか、そして次代を牽引するプロデューサー、さらにエンタメシーンを目指す若い人達に向けてメッセージを届ける。
記念すべき1回目は『渡辺晋賞』の初代受賞者でもある元フジテレビ代表取締役社長/元BSフジ代表取締役社長・亀山千広氏(インタビューは3月末日)。数々の名ドラマを手掛け、『踊る大捜査線』シリーズのプロデューサーとして知られ、2026年には映画『踊る大捜査線 N.E.W.』の公開が控えている。そんな氏にヒットメーカーの心得となる数々の金言をもらうことができた。
――亀山さんは『渡辺晋賞』の記念すべき第1回目の受賞者です。当時のことを振り返っていただけますか?
亀山 今でもはっきり覚えています。ある日突然渡辺音楽文化フォーラムの渡辺ミキさんから「『渡辺晋賞』という賞を作ろうと思っています。第1回目を受賞していただけますか」と言われ、正直ぶっ飛びました(笑)。プロデューサーを顕彰する賞ということで、僕は確かにテレビ局のプロデューサーで、『踊る大捜査線』がたくさんの方に愛され、それを評価していただけたのかなと、なんとなくは理解できたのですが、何よりサラリーマンなので、会社組織の人間が個人として賞をもらっていいのか判断できず、当時の上司に相談した記憶があります。上司からはひとこと「名誉な話だから」と背中を押され、受賞させていただきました」
――授賞式で亀山さんは「会社のために番組を作ったことはなく、お客さんがいかに喜んでくれるかだけを考えてやってきました」とスピーチしました。
亀山 それが『渡辺晋賞』をいただいた最大の理由だと思っています。渡辺晋さんご本人にはお会いしたことはないのですが、映画やバラエティなど多彩な分野で活躍された方の名を冠した賞をいただけたことは今でも名誉に感じています。そしてその後の錚々たる受賞者の方を見るにつけ、ますます名誉な賞をいただけたんだなと実感しています。授賞式の日は、目の前に会社の上司が座っていて、サラリーマンがその方たちの前で「会社のために番組を作っていない…」というスピーチをしたので、少し冷汗が出ました(笑)。
――スピーチではさらに渡辺晋さんの絶筆の一文「映画は永遠の青春である」という言葉を引用して、「僕は青春のど真ん中で映画作りをやらせていただいている。これからも精進したい」とおっしゃって、まさにその言葉通りのプロデューサー人生を歩んでいらっしゃいます。
亀山 覚えています。でもそのときはこういうことになるとは全く思っていませんでした。2003年にフジテレビに映画事業局が設立されて、初代の局長に任命され、賞をいただいた2006年当時はもう仕事が映画中心になりつつあったので、渡辺晋さんのあの言葉がすごく心に響いたのだと思います。
――その言葉通り映画マンとして昨年も“踊る”シリーズの『室井慎次 敗れざる者』『室井慎次 生き続ける者』をヒットさせました。まさにフジテレビが目指した“ワンソフト・マルチユース”の発想を追求し続けています。
亀山 広告収入だけに頼らず、番組から何かをクリエイトしていく、それがプロデューサーだという教育を入社からずっと受けてきました。入社してから編成、制作部が長くて、その後編成局長を4年やって、映画事業局に10年いて社長になったという流れですが、結果的に会社人生としてはドラマの界隈に一番長くいました。さらに映画事業に携わっていた10年が強烈で、僕がテレビ局のプロデューサーということを忘れている人もたくさんいます(笑)。僕は幼少期から映画監督になりたくて、大学時代は映画監督の五所平之助さんに師事していましたが、「映像を作るならテレビ局へ行け」とアドバイスしていただき、フジテレビに入社しました。テレビ局にいながら映画を作れるという最高の環境で仕事をすることができ、まさに三つ子の魂百までとはよく言ったもので、ずっと映画作りに携わることができ、現場で作品を作り続けられたことは幸運でした。サラリーマンとして、組織の中でヒット作を生み出せたことは本当にありがたいと思っています。経営に回ってからは脳の使い方が全く違い、苦労も多かったですが、今振り返ると現場での経験が自分の財産になっていると思います。
――プロデューサーとしての仕事観、現場で大切にしていることを教えてください。
亀山 数字や視聴率に一喜一憂しないことを心がけています。マーケティングや編成上は数字も大事だけど、作り手が数字ばかり気にすると、本質を見失ってしまいます。自分が「面白い」と思うものと、世の中が「面白い」と思うものが一致したときにヒットが生まれる。現場では「このキャスト、この脚本だからできること」にこだわり、同じ鉱脈を何度も掘り返すのではなく、その時々の最適解を探し続けること。もちろん失敗もたくさん経験しましたが、失敗から学ぶことも多い。挑戦し続けることがプロデューサーの役割だと考えています。