一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
これから日本のエンターテインメントを担う
若きプロデューサーたちへ
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~
一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~
2025.6.26
――どうやってくどいたのでしょう?
亀山 柳葉さんが本広監督に「なぜやるんだ、これを」と聞いた時、監督が「亀山さんの最後の作品だからです」って言ったんです。柳葉さんも僕の方を見て「本当?」って(笑)。確かにスタッフとの話し合いの中で「最後かもしれない」と言ったと思いますが、それが一人歩きして、なぜか僕の最後の作品になってしまいました(笑)。
――それが柳葉さんが出演を決めた決定打になったのでしょうか。
亀山 それだけではないと思いますが、何度も何度も話し合い、ようやく柳葉さんも監督も納得してくれ、ゴーサインが出ました。監督が制作を進めるうちに「踊る」らしいエンタメ要素も加わりました。プロデューサーとしては、現場の意見をまとめ、時に矢面に立つことも多い。キャストやスタッフの意見を聞きながら、全員が納得できる形に持っていくのが自分の役割だと思っています。
――全てを撮り終えた柳葉さんの様子はいかでしたか?
亀山 打ち上げの席でもとても明るくて、映画のプロモーションでバラエティ番組に出演していただきましたがすごく弾けていて(笑)、あの笑顔が役から解放されたことを物語っていると感じました。
――そして『室井慎二 生き続ける者』本編終了後、織田裕二さん演じる青島俊作がサプライズ登場し、“THE ODORU LEGEND STILL CONTINUES”の文字がスクリーンに映し出され、新作『踊る大捜査線N.E.W.』が来年公開されることが発表されました。亀山さんは今回もショーランナー的な立ち位置で深く関わっていくことになるのでしょうか。
亀山 今回はアドバイザーとして参加させていだきますが、すでに脚本の打ち合わせを10回以上やっています。改めて20年以上前に始まったこのドラマと映画が、こんなにも多くの人が観てくれていることにびっくりして、しかも新たにファンになってくださっている方もいて、それでも面白いって言ってくれる人たちがいるのが嬉しくて。青島君を引っ張ってこられるかどうかは、そういう世間の反応、時代の要請が重要でした。待ってくださっている方たちに対して次なる「踊る」って?ということを見せるのでN.E.W.だし、でも単純にN.E.W.っていうよりもNextとEvolutionとWorldっていう新たに進化した世界をどう見せるかを考えるのですから、それは楽しいですよね。
――「踊る」シリーズは演者もスタッフも同じように年を取っていって、どうつながっていくのか誰もが気になるところです。
亀山 そういう意味ではそれがどう繋がっていくのかを見届けたいです。そのど真ん中にいて見届けるかは別問題として、見届けていたいと思います。振り返ってみると、今更ながらいい意味で“これ”に人生を狂わされたんだなって思います。狂わされたというか、人生の節目節目に「踊る」があって、そういうところで生きてきているんだなって感じました。『渡辺晋賞』のこれまでの受賞者の方を見ると、やっぱり個人事業主の方が多くて、自分は会社に守られながら好きなことをやってきた、本当に恵まれている人間だなって思いました。
――これからのエンタメシーンを作る“プロデューサー”、若手クリエイターへ何かメッセージをいただけますでしょうか。
亀山 まず今のテレビ業界はオワコンと言われることも多く、現場で働く人たちにはつらい時代だと思います。でもモノ作りの本質はメディアがどこであろうと変わらない。僕は人が主役でなければダメだと考えています。アニメーションでも、動物がしゃべっていても、声を出しているのは人間。だから、どんな作品でも人間が中心にいることを忘れないでほしいです。
――様々のメディアの中で、テレビの“在り方”も問われています。
亀山 僕らの時代はテレビが最大のメディアでした。視聴率を気にするのは当然だけど、数字の裏には圧倒的な数のサイレントマジョリティーがいることを理解してほしい。『踊る大捜査線』も最初は14〜15%の視聴率で、決して爆発的なスタートではなかった。でも、最終回でやっと20%を超え、映画化で一気に広がった。シネコンの普及で映画の間口が広がったことも大きいです。なぜここまでヒットしたかは今もよくわからない。つまり、最初にも言いましたが、目の前の数字だけを見て一喜一憂していたら、今の自分はなかったと思います。数字や視聴率は会社のためのものと考えるべきです。作り手がそればかり気にすると、本当に作りたいものを見失いがちです。僕自身、ひと桁視聴率の番組もたくさん経験しましたが、「自分たちがこれを作るにはこういう理由がある」と、確固たる信念を持って挑戦することが大切です。最初は苦しくても、終わってみれば評価されることもある。逆に、ダメだったときも自分を責めすぎないでほしい。反省しすぎると、誰のために作っているのかわからなくなります。時代は変化しています。でも作っている側が面白いと思ったものが、結果的に世の中にも受け入れられるという経験は時代に関係なく、後輩の皆さんに伝えられることだと思います。
――SNSの声が世論を大きく左右する時代でもあります。
亀山 番組内容や出演者の発言について、SNSなどでネガティブな意見も届きやすいですが、クレームを言ってくる人より、圧倒的多数のサイレントな視聴者がいることを忘れないで欲しい。自分の信じたものを貫く勇気を持ってほしいです。モノ作りの世界を目指している人たちには、「自分の仕事がストーリーになるように人生を歩んでほしい」と伝えたいです。誰にでもどん底の時期はあるし、負けるからこそ価値がある。才能がないと思っても、熱意でぶち抜いていくタイプが生き残るはずです。僕自身、若い人から「自分には才能がない」と相談されると「元々才能があると思っていたのか?熱意で勝負しろ」とよく言います。昭和と言われるかもしれませんが、大切なことだと思っています。ヒットの論理は後付けでしか説明できません。最初から狙って当てられる人なんていません。大事なのは自分が面白いと信じるものを作り続けること、そして数字や評価に振り回されず、熱意と信念を持って挑戦し続けてください。
――今後のご自身の展望をお聞かせください。
亀山 ゼロから新しいものを生み出すのは若い人たちに任せ、私は1から10をサポートする立場でいたいです。そうやって次世代にバトンを渡していきたい。エンタメの現場はまだまだ面白い。これからも、作品を通じて多くの人にワクワクを届けていきたいと思っています。
1956年、静岡県生まれ。
株式会社ビーエスフジ コンテンツアドバイザー
早稲田大学在学中に、映画監督・五所平之助の書生を務め、映画製作を経験する。1980年フジテレビ入社後、編成部および第一制作部を経て、編成制作局長に。代表的なドラマプロデュース作品に、「ロングバケーション」「ビーチボーイズ」「踊る大捜査線」など。2003年よりフジテレビ映画事業局長として、「踊る大捜査線」シリーズをはじめ「海猿」シリーズなどの製作を手がける。2013年同社代表取締役社長、2017年ビーエスフジ代表取締役社長。2024年「室井慎次 敗れざる者」「室井慎次 生き続ける者」を製作。2025年6月より現職。