一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム

渡辺晋賞 第20回 記念企画

これから日本エンターテインメント担う
若きプロデューサーたちへ

渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス

WATANABE FOUNDATION
            FOR MUSIC & CULTURE

これから日本のエンターテインメントを担う
  若きプロデューサーたちへ 第一回 渡辺ミキ

第0回 渡辺ミキ


第0回 渡辺ミキ

2025.6.12

Interview: 田中久勝/Photo: 山本佳代子/Design: 中村麻衣
渡辺ミキ

「渡辺晋賞」20周年を記念して、これまでの受賞者に『これから日本のエンターテインメントを担う若きプロデューサーたちへ』と題して、次代を担う若き才能たちへの応援と後押しの一助とするべく、歴代の渡辺晋賞受賞プロデューサーにインタビュー。その目に現在のエンタテイメントシーンはどう映っているのか、そして次代を牽引するプロデューサー、さらにエンタメシーンを目指す若い人達に向けてメッセージを聞かせてもらった。

シリーズ1回目は「渡辺晋賞」を主催する、一般財団法人渡辺音楽文化フォーラム・渡辺ミキ理事長代行にインタビュー。同賞が20回目を迎えての思いや、これからどんな存在の賞になって欲しいか、そしてプロダクションの未来像、求められる表現者とは?まで、多岐に渡って現在の考え、思いを聞かせてもらった。

「歌は世につれ、世は歌につれ」渡辺晋の思いをつないで

——「渡辺晋賞」が今年で20回目を迎えました。改めて今どのような思いがありますか?

渡辺 「渡辺晋賞」は、2005年に現ワタナベエンターテインメントの代表取締役会長・吉田正樹と構想を始めました。2005年という年はYouTubeに初めて動画が投稿されたり、インターネットが広く普及し始めた年で、iTUNES MUSIC STOREが日本でサービスをスタートさせるなど、エンターテインメントシーンに大変化が起こり始めた年になります。そんな時だからこそ “始まり”を検証することで前に進めるのではと思いました。

——2005年は、渡辺プロダクション創立50周年記念の年でもありました

渡辺 そうなんです。この年、私は渡辺プロダクションの創立50周年記念プロジェクトとして、ドラマやミュージカル、展覧会の制作、本の出版などいくつものプロジェクトを数年かけて進めていました。父である渡辺晋がやってきたことを改めて遡って、その思いに触れて感じたのは、父がよく言っていた「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉の通り、ヒットする音楽、大衆が求めるエンターテイメントというものは、時代と共に並走して変化していくものであるということ。その変化をもう少し定点で捉えて、何でも変化して、新しいものになるのがいいという考えではなく、これを作ったのは誰なのかということを解析することによって、変化していいもの、変化してはいけないもの、何が“本質”で何が“形”なのかを検証しながら行動しなければ、流行歌、ポップカルチャーは文化になっていかないのではないかと、吉田と話をしました。

——時代が大きく変わろうとしている時だからこそ、「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉の意味や背景にあるものを今一度検証してみようと。

渡辺 そうです。時代の流れ、未来をいち早く掴んでいた父の考え方や功績を思い出すことで、開拓した事柄の中で、残さなくちゃいけないもの、今だからこそ参考になること、今に置き換えるとどう新しくするべきかという視点が生まれてきます。当時に囚われない、囚われるべきではないこと、逆に今の状況を言い当てている部分もあるし、これから日本の芸能業界が大衆とともにどう成長し、さらに文化の発展とともに、国力を上げることに我々の業界が貢献し続けていくには、父が今のエンターテインメントビジネスの根幹を作ったときの考えを振り返る必要があると感じました。私にとっては父が作った渡辺音楽文化フォーラムの理念を受け継ぎ、音楽をビジネスとして社会に認めてもらい、大衆音楽を文化として再定義することがその出発点でした。父は、一般社団法人音楽事業者協会を文部省ではなく通産省(現・経産省)の管轄にしてもらうため、音楽を「ビジネス」として確立するために奔走しました。だから大変革の時こそ、始まりのストーリーに戻る必要があると感じました。

渡辺ミキ

——エンタメシーンが大きな変革を迎えようとする中でどう動くべきか、そのヒントを与えてくれる人が一番身近にいたということですね。

渡辺 2005年は父が亡くなって18年。20年近い月日が流れる中で、家族のように近い人も、1回も会ったことがない人も、等距離で渡辺晋がやったこと、功績を眺められるようになった。それは渡辺音楽文化フォーラムも同じです。「歌は世につれ世は歌につれ」という言葉のように、時代を創るプロデューサーも、その時代によって変わっていくということです。そして渡辺晋を通してエンターテイメントのプロデューサーとはなんぞやということを追求していこうと思いました。プロデューサーの感性を通して時代を映し、プロデューサーが次の年もその次の年も新しい形をどんどん生み出していく。それが日本の芸能文化の発展につながるし、日本の音楽や映画が海外の方にも届き称賛されれば、世界中の方々から尊敬される国になり、国力のアップにもつながるはずです。また日本人の豊かな精神性を力に変えることにもなるはずで、それも国力の向上につながると思いました。そう考えると、スターはもちろん必要ですが、同じくらいプロデューサーという存在にもっと光を当てるべきで、プロデューサーがやり遂げたことを検証し、顕彰する日本で唯一の賞を、渡辺音楽文化フォーラムでやるべき事業ではないかということを、吉田と話し合った覚えがあります。