一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
これから日本のエンターテインメントを担う
若きプロデューサーたちへ
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~
一般財団法人 渡辺音楽文化フォーラム
渡辺晋賞 第20回 記念企画
~渡辺晋賞受賞プロデューサーからのアドバイス~
2025.12.18
——ミリオンヒットになりました。
秋元 あるいは、「ポケベルが鳴らなくて」(国武万里/1993年)は、通信機器の進化のスピードってものすごく速いので、ポケベルってキーワードは今しか歌えない曲だなって思って書きました。
——例えば国生さゆりさんに書かれた「バレンタインキス」は、バレンタインの時季になると今でも流れるし、「クリスマスキャロルの頃には」(稲垣潤一)もクリスマスの季節になると流れてきて、そういう部分で秋元さんは“習慣”も作ったといえると思います。
秋元 季節モノって、例えば山下達郎さんの「クリスマス・イブ」もそうだし、やっぱりその時になると必ず流れるというのは、ヒット曲のひとつのスタイルで、古くは「ホワイトクリスマス」からそういうパターンもあると思います。でもこれも先人たちが作ってきたことで、だからこれは新しいなと思って、例えばとんねるずをプロデュースしても、それは青島幸男さんがクレイジーキャッツでやっていたりすることなんです。
——確かにそうですね。やっぱり先人たちのクリエイティブパワーは凄いです。話が前後してしまいますが、秋元さんの元にはどんどん作詞の依頼がくると思いますが、歌詞に関して修正を求められることはあるのでしょうか?
秋元 最近多いのはプロデューサーが僕なので、プロデューサーの僕が、作詞家・秋元康にここを直して欲しいとか、もうひとつフックが欲しいとか思うことはあるけど、そういう意味では他からは確かにないかもしれないですね。
——タイアップとかある程度の「制約」がある中で遊ぶという作業の方が楽しいですか?
秋元 そういう仕事が楽しいときもあります。今はどんな会議に出ても、昔は最年少だった自分が最年長になったので。そうすると何かを人から教わるとか、そういうシーンが少なくなってきています。だから例えばWeb3. 0的なものであるとか、ブロックチェーンとか、全然わからないけど、若い人の話を聞いているとすごく面白いなって思います。Web3.0分野の日本のリーダー的存在の渡辺創太君みたいな若い人達が時代を変えるんだなって思うし、知らないことを知る意欲が、今の若いプロデューサーたちを時代の先に連れていくのだと思います。
——秋元さんは25歳以上の男性を対象にした「夢をあきらめるな!オーディション」を経て昨年結成したSHOW-WAとMATSURIという昭和歌謡を歌う12人のグループのプロデュースを手掛けていますが、今なぜ昭和歌謡だったのでしょうか?
秋元 僕が変わらないのか、変われないのか、やっぱり“いいメロディ”が好きなんですよね。だから曲を発注する時は必ず「口ずさめるものを」と言っています。僕にとっては口ずさめるというのが生命線なんです。 最近はダンスミュージックもそうだし、傾向としてボーカルもサウンドのひとつになってきているので、それとは違うシティポップやJ-POPが再評価されているのではないでしょうか。やっぱり筒美京平さんや林哲司さん、鈴木キサブローさんとか、先人たちの作るメロディが素晴らしいからだと思います。
——SHOW-WA/MATSURIは毎日「ぽかぽか」に出演して、ファンがその成長を見守り、応援の熱も高まってきています。
秋元 自分がプロデュースした作品やアイドル、グループの「ストーリー性」を大切にしているんです。一度挫折した若者がもう一度がんばる姿……それはAKB48然り、SHOW-WAやMATSURIも然りで、商品やグループが“売れる”背景には、必ず「ストーリー」が必要だと考えています。自分になぞらえられるストーリー性があるものが支持されるのだと思います。
——テレビ業界の現状をどう受け止めていますか?
秋元 全体的にテレビを見る層のメインが60歳以上になって、若い人たちはオンデマンドが主流なので地上波が苦戦しているように見えるかもしれないけど、でもそこには例えばドラマ『半沢直樹』(TBS系)のように、世代に関係なく夢中にさせるコンテンツがある。家にはまだテレビがある家庭も多いと思うし、コンテンツ自体の力があれば、まだまだいけると感じています。むしろ「TVer」の見逃し配信などで好きな時に観られるようになって、消費の仕方や生活との付き合い方が多様化しただけだと思います。テレビ自体の力が弱くなったわけでは決してありません。先ほど申し上げたように、虫眼鏡でその発火点を探すということでいうと、今度はかつての『冬ソナ』のように、60歳以上が夢中になるドラマが先にあり、それがすごく話題になっているから観てみようということで、下の世代に拡がっていくこともあると思っています。
——仕掛け人・秋元康の「頭の中」にある、変わらぬセオリーとは?
秋元 これもよく言うことですが、例えばショートケーキは僕たちの世代にとってはイチゴが乗っているのが王様でしたが、時代が変わって今はメロンやマンゴー、グレープフルーツもある。でも変わらないのは土台のスポンジケーキなんです。つまり、時代やデコレーションは変化しても、その根本となる本質は変わらない。そのスポンジケーキの部分をきちんと作り続けることが、クリエイターの仕事だと感じています。
——楽しかったこと、熱中できたこと、それを続けてきたらここまで来たというのが実感ですか?
秋元 キャリアの長いバンドや芸人さんにインタビューするとき、インタビュアーさんは苦労話を聞きたいし、知りたいんですよね。だから芸人さんが「昔は本当にお金がなくて困って、こんな生活をしていた」という話をするわけですが、実際にはみんな好きなことをやってきたから苦労だとは思っていないんです。それも含めての“道”なんですよ。僕も楽しかったことを続けていたら今に至ったというのが正直な思いです。
——エンタメシーンで活躍している若きプロデューサー、これからエンタメ業界を目指す人たちにメッセージをお願いできますでしょうか。
秋元 一番は根拠のない自信を持つこと。根拠がある自信だと、その前提が崩れたら道に迷う。でも何となく自分にはできる気がすると信じることが、未開の道を切り拓く力になる。昔も今もこれからもエンターテインメントには特に正解がなく、変化が激しい。だからこそ場の空気を読む能力や根拠のない自信が大切だと伝えたい。人間には運やタイミングや出会いがあるのでそれを信じていくこと。自分だけでは抗えない運命の流れみたいなものがある。だから流れるように進んでいくのも大切だと思う。年齢を重ねて自分が得た経験や出会い、運の良さ。それを次世代にバトンとして渡す意識も強まっています。僕は声高に何かをこうしろとかは言わないけど、礼儀や立ち振る舞いも含めて、そういう“生きた知恵”はさりげなく伝承できればいいなと思っています。AKB48にしても、先輩たちがどんどん後輩へ思いを引き継いでいくのを見ると、やっぱり“愛校精神”みたいな感覚が大きい。若い人に伝えたいのは、とにかく自分が面白いと思うこと、心が動くことを徹底的に追いかけてほしいということ。それが結果的に新しい道になるはずです。これからを担うみなさんが見せてくれるものを楽しみにしています。
1958年生まれ、東京都出身。作詞家。東京藝術大学客員教授。
高校時代から放送作家として『ザ・ベストテン』など数々の番組構成を担当。作詞家としては美空ひばり『川の流れのように』、AKB48『恋するフォーチュンクッキー』など多くのヒット曲を生む。2015年、作詞家としてシングル・トータルセールスが前人未到の1億枚を突破(オリコン調べ)。
企画・原作の映画『着信アリ』はハリウッドリメイクされ、2008年『One Missed Call』としてアメリカで公開。原作の『象の背中』は2012年、韓国JTBCでテレビドラマ化された。近年はオペラの演出や歌舞伎公演の作・演出等も手がける。2022年、紫綬褒章を受章。