顕彰事業

第12回表彰 授賞式の模様:川村元気氏受賞挨拶

川村元気です。 本日は、このような過分な賞をありがとうございます。

何を話そうかなと思ってきたんですが、僕と映画の出会いについての話をしたいと思います。
僕の父親は、元々日活で助監督をやっておりまして、僕が生まれる前に夢を挫折し、映画業界から離れました。父が僕にしたことは、映画の英才教育でした。

3歳の時に、生まれて初めて映画館で映画を見ました。『E.T.』を見たんですが、そのときに僕が覚えていることが3つあるのです。一つは、映画館が暗く、音が大きくて怖かった。二つ目は、床にジュースがこぼれてベタベタしていた。そして三つ目なのですが、映画の後半で少年エリオット君とE.T.が追われて、自転車の前かごにE.T.を乗せて走るシーンがあるのですが、そこで自転車がパッと宙に浮いて飛ぶんです。そのシーンを観た時に、僕は何故か立ち上がったんです。感動していたのか何かわからないのですが、「なんかすごいものを観た!」と立ち上がって、“立ったままで映画を観た”というのが、最初の映画との出会いの記憶です。

それから20年が経ち、映画好きな青春時代を終え、東宝に入りました。最初は大阪・難波の『南街会館』というものすごく古い映画館で、チケットのもぎりをするのですが、そのなかで大事な仕事がありました。映画業界の方ならご存知かと思いますが、“プリントテスト”という、当時はフィルムだったんですけど、送られてくるフィルムに傷が無いかどうか、映画館の従業員が深夜の映画館でチェックする仕事です。僕がある日プリントテストに向かったら、そこで流れてきたのが『E.T.』だったんです。20周年デジタルリマスター版の上映ということでしたから、僕はつまり23歳になっていたわけです。一人で深夜に映画を観ながら、E.T.を乗せた少年エリオットの自転車が空を飛ぶシーンで僕は号泣していたんです。気付いたら涙が止まらなくなっていて、「これが映画の力だな。」と思ったんです。3歳の少年を立ち上がらせて、23歳の映画を志す人間を号泣させる力が映画にはある。それに感動しました。

そのあとに僕は映画の企画をするセクションに異動して、映画を作ることになるのですが、そのとき、なぜ3歳の自分があのとき立ったのか、なぜ23歳の自分が号泣したのか、プロとしてその理由を分析しようと思いました。そして考えたところ、あのシーンというのは、まず物語のクライマックスなんです。少年エリオットとE.T.との友情が最も高まる瞬間である。かつ、素晴らしい映像ですよね。空を飛ぶ自転車がファンタジックであり、撮影も素晴らしい。とにかく映像的に素晴らしいシーンである。そして最後に、最高にロマンティックなジョン・ウィリアムズの音楽がそこに流れる。つまり「物語と映像と音楽が最高の形で重なり合ったときに、映画は人の心に強く何かを語りかけることができる」ということを、スピルバーグから教わったということになります。

僕はそれ以降、信念として、その3つが重なり合う瞬間を映画の中に何回作れるかということを、モットーとして映画を作ってきました。
その最たるものが、もしかしたら『君の名は。』だったのかもしれないです。映像と物語と音楽が最高の形で重なり合う。それを日本で最初に始めたのが渡辺晋さんだったような気もします。つまり、音楽というものと映像ということ、芸能ということ、そういうことをいかにマッチさせていくかということを先輩に教わったような気がしています。

長々と話してしまったのですが、やはり音楽を中心に芸能の礎を築かれた渡辺晋さんのお名前を冠する賞を頂けたことを大変光栄に感じております。
これからもこの賞に恥じないように、映画を作っていきたいと思います。
本日は、本当にどうもありがとうございました。

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